急速充電より設置コストや電力供給の面で利便性が高い
電気自動車(EV)の普及が急速に進む中、日本国内でのEV充電インフラの整備が重要な課題となっています。EV充電器の出力にはさまざまな種類があり、6kWタイプの普通充電器はその一つです。
6kWタイプの充電器は、急速充電器に比べて出力が低いものの、設置コストや電力供給の面で利便性が高いため、多くの用途に適しています。
本記事では、6kWタイプのEV充電器の日本における主な導入場所と市場性について、具体的な例を挙げながら解説していきます。
6kWタイプのEV充電器の特長
6kWの普通充電器は、急速充電器に比べて充電速度は遅いものの、設置コストや運用面での利便性が高いのが特長です。また、一般家庭や小規模商業施設、マンションなどでの設置が容易で、これからのEV充電インフラの中核を担う存在として注目されています。
6kWタイプEV充電器のニーズが高い場所
戸建て住宅
6kWタイプのEV充電器は、戸建て住宅での設置が特に普及しやすいと考えられます。EVの普及に伴い、自宅で充電を行いたいと考える個人が増えており、急速充電器のような高出力でなくても、毎晩充電できる環境であれば、日常的な使用に十分な充電が可能です。
設置にかかる費用も比較的安価で、一般家庭の電気設備にも対応しやすいことから、今後の需要が期待されます。
市場性
日本では政府主導でEVの普及が進んでおり、2035年までに新車販売をEVやハイブリッド車に限定する政策が発表されています。
この流れを受け、自宅での充電インフラの整備は不可欠となるため、今後さらに市場が拡大していくと考えられます。
マンション・集合住宅
マンションや集合住宅においても、6kWタイプのEV充電器は非常に有効です。特に都市部では、駐車スペースが限られているため、充電器の設置場所の確保が課題となります。
しかし、6kWタイプであれば、スペースや電力供給設備の面でも比較的設置がしやすく、多くの住人が利用できるような環境を整えることが可能です。
市場性
マンションの管理組合やデベロッパーが積極的にEV充電設備の導入を進めており、2020年以降、集合住宅における充電器設置の補助金制度も整備されているため、今後ますます設置が進むことが予想されます。
また、EVの所有率が上昇することで、住民からの要望も増加し、管理会社が積極的に対応するケースが増えるでしょう。
商業施設・ホテル
商業施設やホテルにおいても、6kWタイプのEV充電器は適しています。顧客が施設内で過ごす時間(1〜3時間程度)を利用して、普通充電を行うケースが多く見られます。
このような施設では、急速充電の必要性が低く、駐車場スペースの効率的な運用が求められるため、6kWタイプの普通充電器が非常に有効です。
市場性
旅行や出張で利用されるホテルやショッピングモールなどでは、EVユーザーに対する充電サービスの提供が付加価値となり得ます。特に観光地やビジネス地区では、充電インフラの整備が顧客の誘致につながるため、今後の市場成長が期待されます。
職場・オフィスビル
職場やオフィスビルでも、6kWタイプの充電器のニーズが高まっています。従業員が車で通勤する場合、1日の業務時間を利用して充電を行うことができるため、急速充電の必要がないケースが多いです。
6kWタイプの充電器であれば、一般的な勤務時間中に十分な充電が可能であり、設置費用や電力供給の面でも企業にとって負担が少ないため、導入が進んでいます。
市場性
企業がEVを導入する際、従業員向けの充電インフラの整備が必須となります。カーボンニュートラルを目指す企業が増える中で、EVの導入と共に充電インフラの整備も進むと予想されます。
また、オフィスビルの所有者や運営者がテナントのニーズに応じて充電設備を導入する動きも広がっています。
公共施設・自治体運営の施設
公共施設や自治体運営の施設でも、6kWタイプの充電器は活用されています。役所や図書館、スポーツ施設など、公共の場での充電ニーズに対応するため、比較的低コストで設置できる普通充電器が選ばれることが多くなっています。
これにより、市民サービスの向上や、EV普及への取り組みが促進されています。
市場性
多くの自治体がEV普及を支援する政策を推進しており、公共施設での充電インフラ整備はその一環として注目されています。今後、自治体主導の取り組みとして、さらに充電器の設置が進んでいくことが予想され、地方自治体の支援も期待できます。
場合によっては電力供給設備の改修が必要!?
6kWタイプの充電器は設置コストが比較的低いですが、設置場所によっては既存の電力供給設備の改修が必要になる場合があります。特に、古い建物や電力設備が整っていない場所では、追加の工事費用がかかることが課題となります。
電力容量の不足
多くの施設や住宅には、日常的に使う電力を供給するための基本的な電力契約が結ばれています。しかし、EV充電器を設置する場合、その充電器が使用する電力量が加わるため、既存の電力契約の容量を超えてしまうことがあります。
例えば、一般家庭では、通常30A〜60Aの電力契約をしていることが多いですが、6kWの充電器を稼働させるには約30A(単相200V)の容量が必要になります。
もし家庭内で他の家電も多く使用している場合、充電時に電力不足が生じ、ブレーカーが落ちてしまうことがあります。このような場合、電力会社と契約を見直し、契約容量を増やす必要がありますが、それには追加の費用がかかります。
配電盤や電力系統の改修
設置場所の配電盤や電力系統が古かったり、設計が充電器を想定していない場合、電力供給の制約が発生します。具体的には、以下の問題が起こりやすいです。
- 配線の容量不足: 配電盤から充電器までの配線が、6kWの充電器が必要とする電力を十分に供給できる容量でないことがあります。この場合、電力ケーブルやブレーカーを太いものに交換する必要があります。
- 配電盤の容量不足: 配電盤に接続できる電気機器の容量が限られている場合、新たにEV充電器を接続することで、配電盤が過負荷になってしまうことがあります。この場合、配電盤全体を増強する工事が必要になります。
こうした改修は、特に古い建物や既存の電力設備が限られている場所では大きな問題になります。
同時使用による負荷分散の問題
EV充電器を複数台設置するような場合(マンションや商業施設など)、一度に多くの車が充電を行うと、電力供給設備に大きな負荷がかかることがあります。
特に、複数の6kW充電器が同時に稼働する場合、施設全体の電力供給量を超えてしまう可能性があります。このような場合には、充電器同士で負荷を調整する「負荷分散システム」を導入することが求められます。
このシステムでは、同時に充電を行わないようにする制御や、各充電器の出力を自動的に調整して全体の電力負荷を軽減することが可能です。
追加工事のコスト
電力供給に関するこれらの制約を克服するためには、さまざまな追加工事が必要になることがあります。具体的には、次のような工事が必要になることがあります。
- 電力会社との契約容量の増加
- 配電盤や配線の改修・増強
- 施設全体の電力供給システムの見直し
- 負荷分散システムの導入
これらの工事にはコストがかかり、特に古い建物やマンションでは工事費用が高額になる場合があります。設置費用が膨らむことによって、EV充電器の導入をためらう要因となることもあります。
行政の補助金制度
日本政府はEV普及を支援するため、さまざまな補助金制度を提供しています。これにより、6kWタイプの充電器の導入コストを抑えやすくなっており、今後の市場成長を後押しする要因となっています。
まとめ
日本における6kWタイプのEV充電器は、家庭用から商業施設、公共施設まで、幅広い場所でのニーズが高まっています。設置コストが比較的低く、既存の電力供給インフラに対応しやすいことから、普及が進んでいます。
政府の政策や補助金制度が後押ししていることもあり、今後ますますこの市場は拡大していくことが予想されます。EVの普及が進む中で、6kWタイプの普通充電器は、都市部から地方まで、あらゆる場所で重要なインフラとなりつつあります。
今後も、この分野での技術革新や運用モデルの進化に注目が集まるでしょう。
〈参考情報〉
◆充電インフラ整備促進に関する検討会 / 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/charging_infrastructure/index.html
◆カーボンニュートラルに向けた自動車政策検討会 / 経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/carbon_neutral_car/index.html
◆局地的電力需要増加と送配電ネットワークに関する研究会
https://www.emsc.meti.go.jp/activity/index_localdemand.html